サンケイスポーツ、サンスポ
[コラム]


乾坤一筆
14日

先日、新聞の社会面を見て、遠い昔の嫌な思い出がよみがえった。

文科省が3月末、危険が指摘される組み体操について都道府県教育委員会に対し、事故防止の徹底を求める通知を出した、というもの。

30年ほど前の高校時代。前時代的な体育教師の指導を受け、体育祭で組み体操を行うことになった。その際、下段にいた筆者は崩れ落ちたピラミッドの下敷きになり、かなりの痛手を負った。やり場のない怒りがわき上がり、「なぜ、このようなことをやる必要があるのか」と尋ねたところ、「生意気なことをいうな。文句を言わずにやれ」と、逆ギレされた。

そんな個人的な問題は別にしても、組み体操はいまだに問題を抱えている。文科省などによると、組み体操で負傷者が出る事故は年間8000件を超え、うち2000件が骨折などの重傷。これだけの犠牲を出しながら、文科省は中止を決断しなかった。首をかしげるばかりだがその理由を知り、さらにあきれた。

「組み体操は1人ではできません。したがって、クラスなのか、あるいは一定の集団において、協力し合うことを教育効果として求めていると思われます。同時に、ピラミッドなどの場合には、土台になる人には筋力が必要ですし、その上に乗る人にはバランス感覚が必要です。万が一のために支える人にとっては注意力が必要であります。このような全体の調和といったことも、相手のことを思いやる、そのために自分を犠牲にする、そのような教育的効果もあると思われます」

馳文科相によれば、組み体操によって協調性や自己犠牲の精神などが養われるため、骨折程度はやむなしとのことらしい。スポーツをすれば、人格が高潔になるなどという思想がいまだに拭われていないようだが、トップアスリートたちの賭博行為などを見ても、スポーツそのものに、絶大な教育的効果があるとは思えない。

スポーツの語源は、「気晴らしをする」という意味の古代フランス語「desporter」が由来とされる。スポーツに教育的な意義、効果などを求めず、本来の意味の通り、安全に気分良く楽しめれば、それで十分ではないだろうか。(伊藤 隆)


乾坤一筆(13日)
乾坤一筆(8日)
乾坤一筆(7日)
乾坤一筆(1日)
乾坤一筆(31日)
乾坤一筆(31日)

ページの上へ
コラムTOP
サンケイスポーツTOPへ

(C)産経デジタル