乾坤一筆
12日
さきの大相撲春場所は、横綱白鵬のひとり勝ちだった。無人の野をいく勢いで13日目での優勝。9度目の全勝優勝は「相撲の神様」双葉山、1月に死去して国民栄誉賞を受賞した「昭和の大横綱」大鵬を抜いて歴代1位。レジェンドの壁を一気に突き抜けた。
記録には敬意を表しながら、ここでは土俵下の審判員になった気分で、ひとつ"物言い"をつけてみたい。おっとりがたなで右手を上げながら「ただいまの一番は白鵬有利と軍配が上がりましたが、世が世ならとの…」。それほどの失策であったことを、どれくらいのファンが気づいていただろう。
それは横綱土俵入りの際、土俵へ上がる「上がり段」(踏み俵)に一歩目をかける足が逆だったのだ。春場所では日馬富士が初めて東の正位に就いたため、白鵬は19場所ぶりに西へまわった。テレビ画面を思い浮かべてほしい。西の横綱は画面右側から登場してくる。露払い、太刀持ちを従え、中央に位置取る横綱は「正面」に向かって左足から上がり段に足をかけなければならない。
これは皇族が観戦される貴賓席のある「正面」が上座にあたることが前提になっている。白鵬のように逆の右足から上がると2歩目の左足を上げたとき、化粧まわしで隠れることなく股下をさらしてしまい"不敬"にあたるというわけだ。東の横綱は右足から上がることになる。
白鵬の場合、太刀持ち、露払いともそろって右足から上がっているため違和感なく見過ごしてしまうが、3人そろって間違っていることになる。十両、幕内土俵入りでも同じ動作が求められるが、逆足で上がっている力士も目につく。こうした所作に精通する巡業部副部長の大山親方(60、元幕内大飛)は「必ず教わっていること。先導の立行司は正しくやっている。天覧のことが頭にあれば、単なるルーチンでないことがわかるはず」と指摘する。
間違いは修正すれば済む。場所後の横綱審議委員会では白鵬に対し、「大横綱」との表現まで出た。だが、双葉山、大鵬を記録では抜いても「股ぐらをさらすような品格じゃぁ…」。どこにも小言幸兵衛はいる。(奧村展也)
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